Project Story 02 海外事業編高まる市場ニーズを捉え、工場新設を成功させよ。

2019年に創立30年を迎えた東南アジアの主要生産拠点・Dainichi Color (Thailand) Ltd.。市場が拡大する中でビジネスチャンスを捉えるべく、第2工場を新設する。海外へ初めて赴任したI.Tが、新たな経験を積みながらビッグプロジェクトを軌道に乗せる。

Phase1“入社8年目、先輩たちに憧れた念願の海外赴任

タイの経済成長が著しい。自動車産業の一大生産地として発展し、大日精化グループ製品の各種用途市場も伸びている。入社8年目のI.Tが、そんなタイにある現地法人Dainichi Color (Thailand) Ltd.、略称DCTでのマネージャーを任じられたのは2017年12月のことだった。

I.Tは入社以来、合樹・着材第1事業部が扱う機能性付与材料や樹脂コンパウンドを担当している。研究開発部門で5年、その後生産技術部門に異動して2年が経とうとしていた。いつかは海外赴任したい――ずっとそう思ってきた。大日精化は、世界各地に現地法人を置くグローバル企業。赴任先から一時帰国して職場にやってくる先輩達が輝いて見えたのだ。だから、内示を受けた時は「来た!」と思った。半年ほど前から上司との会話の端々に感じていた予兆が現実になった。赴任者研修、業務の引き継ぎ、タイでの住居探し、引っ越し、予防接種等々をあわただしく済ませ、2018年2月に着任した。

Phase2想像以上のハードワーク、とにかく一歩ずつ

DCTでのI.Tのポジションは、生産技術を含めた製造部門のマネージャー。DCTでは、設立当初から30年勤めあげた現地スタッフが管理職となり、統制のとれた工場運営が定着している。初めての海外赴任者には仕事をしやすい環境だ。しかし一方で、忙しさもピークだった。自動車をはじめとする産業資材はもちろん、生活水準が上がってプラスチック製日用品も多様化し、DCTの生産量も伸び続けている。生産ラインをフル稼働しても追いつかないほどだ。

そんな繁忙の中に着任し、ぶつかったのが言葉の壁だった。経験を積んでいるDCTスタッフはI.Tの指示を鵜呑みにはしない。「これをしてください」に対して「どんな意図か、課題は何か」を問われ、英語・タイ語で説明する必要があるのだ。I.Tが唯一自在に操れる日本語は少ししか通じず、もどかしい。「しまった・・・!」――I.Tは、会社が費用負担してくれる赴任者向けの語学研修を、他の準備に追われて受けずに来たことを悔やんだ。現地で受講しようにも、現地法人マネージャーは仕事の幅が広く、業務量も多くて余力がない。

そこで考えたのは、言語は違っても共有できるイメージや共通の用語はあるはず、ということだ。製造設備は日本もタイも同じ。しかも、相手は日本人駐在員にも慣れているベテランの大先輩たちだ。とにかく一所懸命に目的や意図を伝え、皆の話すことを聞くというコミュニケーションの中で、通じる語彙とボディランゲージを1つずつ増やしていった。こつこつと努力し学ぶことで、一歩ずつ前に進んでいくしかないのだ。

Phase3工場新設プロジェクトに経験が活きる

しかし、動きの速いのが成長市場でのビジネスだ。急拡大するチャンスを会社が見逃すはずもなく、I.Tが地道に奮闘する傍ら、大きなプロジェクトが水面下で練られていた。第2工場の建設――高まる需要を取り込むべく、生産規模を拡大する。用地は隣接する場所に取得済みで、I.Tが着任して間もなく日本サイドからGOサインが出たのだった。

日本の企画スタッフによるグランドデザインをたたき台にDCTサイドで協議した上で、現地の日系ゼネコンも交えての準備が早速始まった。I.Tは製造部門マネージャーとして、新工場に導入する製造設備の仕様を決める役割を担う。各関係者から製造品目や量の目算を聞き、製造・工務スタッフと討議を重ねる。もちろん、初めての仕事だ。正直、わからないことも多々あったが、設備の選定や仕様決めでは生産技術部門での経験が役立った。設備の動作改善などでさんざん試行錯誤して得た知識は、効率良く安定稼働できる製造ラインを立案する上でとても有用だった。

Phase3全体最適を図る広い視点を培う

建設計画が進むにつれ、新たな難題が持ち上がった。営業活動の中から「ぜひつくってほしい」という新規の依頼が数多く浮かびあがってきたのだ。需要増に対して原材料メーカーの生産キャパシティが追いつかず、顧客は増産や新製品量産をしたいのに良質な原材料を確保できずにいる状況だった。新規の引き合いは大切なビジネスチャンス。そこで急遽、いったん決めた製造設備の仕様を見直すことにした。難題というのは、すべての依頼に応えるには設備導入に工期がかかりすぎ、一方で相手方の生産計画との兼ね合いもあり、全部は引き受けられないことだ。それぞれの案件を精査して営業・製造スタッフと話し合い、最善と考えられる設備を入れると決めた。最終的には皆が納得したが、現地スタッフの意見が入れられない部分もあり、つらい判断だった。

チームワークの中では意見がぶつかることも当然あるが、言葉や文化のギャップが、やはりもどかしい。そんな中でも、経営の観点から決断を下すのがマネージャーであるI.Tの役割だ。先輩方もきっと、こんな苦しいことをたくさん経験しているんだ。I.Tは、安易に憧れていた自分を戒めた。

工事仕様の確定まで半年余りの期間を経て、新工場は2018年秋に着工した。プロジェクトはまだ続いていく。設備は将来的に生産能力を拡張できる余地も残して計画してあり、今後、顧客、スタッフの双方にとって最適なオペレーションを確立していく予定だ。I.Tはさらに新たな経験を積むべく、調色検査部門のマネージャーとして引き続きDCTを率いている。新工場の稼働後には、待ちわびる多くの顧客に最高品質の製品を提供していくと胸に誓っている。

※2019年11月27日にDCT新工場は竣工いたしました。下記リリースをご参照ください。

プロジェクトを振り返って

現地法人のマネージャーは、思った以上に仕事の範囲が広く、裁量も大きい立場です。多くの業務を並行して担うむずかしさはありますが、一方で、さまざまな新しいことに挑戦できるという魅力も大きいです。製造設備の増設は会社にとって大きな投資であり、特に、建屋まで含めた工場の新設はそうそうありません。その計画・設計から建設までをリアルタイムで見ることができたのは、またとないチャンス。機械メーカーと新規設備を試作するのも貴重な経験でした。生産技術や設備に関する知識があって良かったと実感しています。これからDCTでもっとさまざまな役割を担い、成果を上げて自分の足跡を残していく決意です。また将来的には、海外ビジネスの経験を今後の製品・技術開発に活かしていこうと思っています。

Dainichi Color (Thailand) Ltd.
I.T

2019年12月23日現在