ハイテク&カラー 大日精化工業株式会社

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Project Story 01 研究・開発編CO2を原料とする“環境配慮型の新素材”を開発せよ。

地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)。大日精化は、これを原料とした「ヒドロキシポリウレタン樹脂(HPU)」を2016年に上市した。市場からも“環境配慮型の機能性樹脂”として期待を集めている新製品は、研究者たちの絶え間ない挑戦が生みだしたものだった。

Phase1講演会の出会いが、最初のきっかけだった

2008年 とある講演を聴きながら、高分子研究部の木村千也はある技術に大いなる可能性を感じていた。「CO2を固定化して、ポリウレタンをつくる」。実際のところCO2の固定化もそうだが、水酸基を有するポリウレタンという化学構造の新規性に技術者として魅力を感じたのである、自分の手で商品化したいと思った。

論文発表は20年以上前であったが、調査すると工業化している会社はないことが分かった。木村は早速一人でアンダーテーブルでの合成実験を開始した。実験の結果、ハードルは高いが工業化は不可能では無いと確信した。半年後、上司へ「ぜひ事業化に挑戦したい」と申し出た。研究部の開発テーマとして「CO2を原料とする新規ポリウレタン」が正式に動き出した。2009年のことだった。

Phase2“エコマテリアル”を目指して開発がスタート

プロジェクトメンバーは木村を含めて数名、事業部門での開発経験豊富な高橋賢一をはじめ少数精鋭のメンバーが招集された。しかしながら当初、なかなか形のあるものができなかった。分子量も上がらず、真っ黒になったり、ゲル化したりと、かなりひどいものであった。まずはモノマーを徹底的につきつめた。しだいに分子量も上がり始め、ポリマーらしいものができ始めたが、一定の壁を超えることができなかった。プロジェクトメンバーで最年少の宇留野学がある方法で効率的に高分子量体を得る方法を発見した。これでようやく本腰を入れて研究を進める…と思った矢先の逆風、化学業界にもリーマンショックの影響が広がってきた。

大日精化も足元の利益確保を優先したテーマに注力せざるを得ず、研究費も縮小され、自分たちのプロジェクトにも不安が募る。 そんななか、偶然行った分析で開発中の素材が従来のポリウレタンを遥かに超えるレベルのガスバリア性を有していることを発見した。
木村は上司と共に「これからの時代に必要な“機能性エコマテリアル”である」ことを訴え続けた。これが功を奏し、テーマの重要性が認められ、木村たちは堰を切ったように開発業務を加速させた。思いついた化学構造は全て合成してみた。応用用途に関する実験も重ね得られた知見を特許出願に結びつけた。この間に出願した特許は50件を超える。

同時に、量産化技術の開発にも着手した。初めての製品なので、当然、装置の設計もゼロからスタートしなければならなかった。それでも、木村、高橋が携わってきた従来製品の製造ノウハウをベースとし宇留野ら若手メンバーのアイデアをプラスすることで従来大日精化が保有していなかった画期的な製造プロセスを構築する事に成功した。2014年には試作プラントを購入。順調に試作プラントの稼働までたどり着き、製品開発は順風満帆にみえた。

Phase3思わぬ挫折を経て完成した新しいポリウレタン樹脂

2014年、木村は開発責任者として営業と共に客先を回っていた。売れる自信はあった、しかしながらここで大きな課題に直面する。
“エコマテリアル”ということをアピールポイントとして顧客にプレゼンをしたが、顧客の反応は思いのほか冷たかった。化学構造の特異性に着目してくれる会社もあったが、なかなかサンプル評価までは至らず、「このまま売れずに終わってしまうかもしれない…」と、この時ばかりは木村も弱気になった。

しかし、ふと、社内向けに行った製品説明会で「CO2を原料としたポリウレタン」という以外に“大日精化ならでは”の特徴がないと指摘されたことを思い出した。 ガスバリア性などの機能性も有ると自負していたが、製品の魅力には繋がっていなかったのである。「これではダメだ」と世の中には未だ無い新しい機能性を有した素材、大日精化ならではの製品を目指すことにした。
方向性を決定するためにマーケッティングにも自ら取り組んだ。営業部門との連携によるマーケッティングのためのチームを結成し、何度も摺り合わせを行った。そして、以前のプレゼンで得た顧客の意見を整理し、開発の照準を「機能性ポリウレタン」へと明確に定め直した。
分子設計から根本的な見直しを行った。さまざま な顧客の要望に対応できるように、特性の異なる複数の製品群作りを目指した。既存ポリウレタンに近い特性を有するグレード、逆に機能性に特化した化学構造のグレードなど試作をくり返した。新たに加わったメンバーの活躍もあり、ようやく一連の製品群としての「ヒドロキシポリウレタン樹脂(HPU)」の原型ができあがった。ウレタン結合と水酸基の組み合わせが持つポテンシャルを引き出すことで、ガスバリア性は初期の試作品の20倍の性能にまで向上した。従来のポリウレタンを遥かに凌駕する接着力を有する製品の開発にも成功した。

Phase3最終的な夢は、世界を相手に売れるものに育てること

2016年1月、業界の展示会に大日精化の新技術として出展した。連日の大盛況で技術員はフル稼働で説明にあたった。その反響の大きさに、開発を続けてきて良かったと木村らは思った。展示会後も多方面から問い合わせを受け、いくつかの企業との共同研究もスタートした。検討開始から7年、ようやく製品としての第一歩を踏み出したのである。

「最終的な夢は、世界を相手に売れるものに育てること」と木村はいう。木村の言葉を変換すると“世界を相手に売る=世界の役に立つ”ということである。本当に大変なのは、これからである。

プロジェクトを振り返って

優秀なスタッフに恵まれ、多くの方の協力を得てここまで来る事ができました。我々の目指すゴールはまだまだ先にあり、本プロジェクトは未だ現在進行形です。これからが一番大変なステージであり、これから入社される皆さんの力もお借りできればと思っています。

基礎研究から製品を生み出し、量産化までを成し遂げることが企業の技術者として働き始めて以来の夢でした。専門職化が進む世の中で、1人の技術者がそれだけの範囲に関われるチャンスは、そうそうあるものではありません。これからも、自分の夢に向かって進みたいと思います。

基幹技術本部
高分子研究部
木村 千也